[コラム] A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #10 IPO審査における反社排除

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IPO審査における反社排除

A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #10
2024.3.25
執筆者: 清水真一郎弁護士(パートナー) 

1. IPO審査における反社排除

⑴ 暴力団等をはじめとする反社会的勢力との決別は、スタートアップ企業を含め、全ての企業が実践しなければならない最低限のコンプライアンスです。
 
できるだけ早くその理念を理解し、体制を整え、慣れておくことが重要です。
   
ここでは、東京証券取引所におけるIPO審査において、反社排除に関する審査がどのように行われるのかご紹介しますが、上場を目指す会社だけでなく、初期のスタートアップの会社にも同様に当てはまることだと思います。
 
⑵ 東京証券取引所に上場するためには、有価証券上場規程で定められた要件をクリアーしなければなりません。
 
有価証券上場規程では、「その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項」を備えなければならないとされ(207条、実質基準)、更にこれを受けて上場審査ガイドラインでは、「反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること(①)及び、その実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること(②)」を上場の要件としています(ガイドラインⅡ6⑶)。
 
すなわち、東証に上場するためには、①反社排除の体制を備える努力をすることと、②現に、反社の者と関係をもっていないことという両名をクリアーする必要があります。
 
上場審査をする東証側も、反社勢力が経営に関与していたり、主要な株主になっていたり、主要な取引先になっていたりする会社を上場させるわけにはいきません。この反社排除の要件は、“少々のことなら許される”というバッファが一切存在しない世界ですので(つまり、1件でも1人でも確認できれば一発で審査打切りとなる可能性がある)、審査の入り口で入念に審査をします。

 

2.反社排除のための体制

上場審査では、日常的に反社チェックを行うことができる体制を整備するよう努めているかを確認します。例えば、過去の新聞記事で反社勢力との交流が明記されていた人物と分かっていたのに取引を開始したという場合、予防体制がとられていないと判断される可能性があります。
 
IPO準備会社は、反社チェックを日常的に行う体制をとり、いわゆる反社対応マニュアルなどを定めて従業員に周知し、実務チャートを決めておくのが良いでしょう。
 
また、上場審査では、遅くとも上場時までに、契約書への反社排除条項を入れるように求められます。後から取引先等が反社と繋がっていることが分かった時に直ちに契約を解除できるようにする、大切な施策です。
 
ところで、契約書に入れるべき反社排除条項、「相手方が反社勢力だと分かったときに契約を解除できる」というような条文では効果を発揮しない可能性があります。なぜなら、相手方が反社勢力に属しているという証拠をつかむのは容易ではないからです。ですので、相手方の行動に着目して、暴力をふるう、何度も脅迫的な言葉を用いる、退去をもとめても退去しないなどの行動に出たときに契約を解除できるという条文にしておき、後から機能できるようにしておくことも重要だと思います。
 

3.反社排除の事前チェックと事後対応

⑴ 通常、取引先等と新たな取引をする場合には、インターネットや新聞記事、雑誌記事などを検索して、反社勢力に該当する者か否かをスクリーニングチェックする癖をつけておきましょう。反社チェックツール(データベース)を提供している業者もあると思いますので、そのようなツールを利用するのも良いと思います。
 
次のレベルとして、特に重要な取引先、特に反社との繋がりが懸念される者については、調査会社へ調査を依頼することも必要です。特に海外の会社や投資者との重要な取引をする場合には、海外ネットワークを持つ調査会社へ依頼することが有効かもしれません。また、弁護士は、職務上の必要に応じて、他人の戸籍・住民票等を役所に請求することができる権限が法律で与えられていますので、弁護士に調査を依頼し、意見書を作成してもらう等の深堀りをすることも必要です。
 
それでも悩ましい場合には、警察や暴追センターなどの公的機関に相談してみましょう。
 
⑵ しかし、事前のチェックをどんなに入念にしたところで、過去のデータベースに掲載されていない該当者もいるかもしれませんし、また、氏名、住所、生年月日などの個人情報が判明していないと、不完全なチェックとなってしまいますので、残念ながら、事前のスクリーニングチェックには限界があります。
 
したがって、事後的に、取引先等が反社に属することが後から分かった場合に、直ちに相談できる弁護士や警察とのパイプを持っておくことが重要です。
 
民事介入暴力に詳しい弁護士は、面会禁止の仮処分等の法律を駆使して味方になってくれるでしょうし、犯罪に巻き込まれそうになればきっと警察が助けてくれます。
 
事前のチェックと事後の対応、普段から両面で備えておくようにしましょう。
 

以上

 

著者等

パートナー

清水 真一郎 Shinichiro Shimizu

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