[コラム] A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #07 規制対応の方法

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規制対応の方法

A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #07
2024.3.4
執筆者: 町田行人弁護士(パートナー)
 

1 はじめに

ビジネスモデルの適法性の確認が重要であることは、別コラム「ビジネスモデルの適法性のチェック方法と留意点」で指摘したのでそちらを参照願います。ここでは、ビジネスモデルを検証した結果、法規制への抵触が疑われる場合の確認の方法、及び、確認の結果、法規制への対応が必要であることが明らかとなった場合の対応方法について説明します。

 

2 ノーアクションレター制度とグレーゾーン解消制度の利用

法規制への抵触が疑われる場合、そのような懸念を解消してからビジネスを開始するのが望ましいことは明らかです。かかる懸念を解消する手段となる所管官庁に問い合わせるための主要な方法として、ノーアクションレター制度とグレーゾーン解消制度があります。
 
(1)ノーアクションレター制度
 
ノーアクションレター制度とは、事業者が、その事業活動に係る具体的行為が特定の法令の規定の適用対象となるかどうかについて、あらかじめその規定を所管する国の行政機関に確認し、その行政機関が回答し、その内容を公表する制度のことです。ノーアクションレター制度を利用することにより、これから行おうとするビジネスが特定の法令の規定の適用対象となるかどうか明らかにすることができます。但し、ノーアクションレターによる照会を行うためには、例えば金融庁に照会する場合、計画している新しい事業や取引の具体的内容、適用対象となるかどうかを確認したい法令、法令の適用の有無についての照会者の見解とその根拠などを照会書に記載して提出する必要があります。相当程度ビジネスモデルを検証し、法令の適用についても自らある程度の確認をした後で行政機関の見解と齟齬はないか最終段階で利用することが考えられるものの、検証初期の段階で気軽に利用するものとは言い難いところです。
 
なお、ノーアクションレター制度とは別に、例えば金融庁ではノーアクションレター制度を補完するものとして一般的な法令解釈に係る書面照会手続の制度を設けています。こちらはあくまで一般的な法令解釈について回答するものであり、ノーアクションレターとは異なり個別具体的なビジネスモデルに対する法令の適用まで回答を得られるわけではありませんが、ビジネスモデルを固める前の段階で、とりあえず一般的な法令解釈を確認したい場合などに利用することが考えられます。
 
(2) グレーゾーン解消制度
 
グレーゾーン解消制度とは、事業者が新たな事業活動を行おうとする際に、現行の規制の適用範囲が不明確な場合において、具体的な事業計画に即して、規制について規定する法令の解釈及び当該法令の適用の有無を、あらかじめ確認することができる制度のことです。
 
事業者から直接規制所管省庁に規制の適用の有無を照会する場合には、その事業者にとって一定の困難が伴う場合があることから、事業者による新事業活動を推進するため、この制度では、新事業活動を支援する事業所管省庁(すなわち経済産業省)が、事業者と規制所管省庁との調整を含め、事前相談や照会までのサポートを行います。グレーゾーン解消制度を利用しようとする事業者は、新事業活動の内容や、確認しようとする法令の規定等を記載した照会書を作成し、主務大臣(事業所管大臣及び規制所管大臣)に提出する必要がありますが、かかる正式な照会書を提出する前に、経済産業省(新規事業創造推進室)において相談を受け付けています。こちらは制度活用が決まり切っていない段階でも相談可能ですので、ビジネスモデルの検証途中であっても、まずは経済産業省に相談してみることが考えられます。
 
グレーゾーン解消制度では、事業所管省庁である経済産業省が様々なサポートを行い、また、初期段階での相談も受け付けているため、スタートアップにとってはノーアクションレター制度よりも利用しやすいと言えるでしょう。

 

3  ライセンス取得の手続

ビジネスモデルを検証し、所管官庁への照会なども経た結果、サービス開始前にライセンス取得が必要であることが明らかとなった場合には、ライセンス取得の手続を開始することになります。
 
いかなる法令に基づき、いかなる官庁への手続が必要となるのか確認した上で、所管官庁と連絡をとり、ライセンス取得の申請手続を進めることになります。なお、ライセンス取得の手続においては、所管官庁にビジネスモデルを説明する必要があり、ビジネスモデルがある程度固まっていることが前提となります。
 
例えば、フィンテック(FinTech)関連のスタートアップが新たに開始するビジネスについて、金融商品取引業の登録を必要とすることが判明した場合、所管官庁(金融庁又は財務局)に必要書類を揃えて申請することとなります。まずは事前相談からはじまり、当局とのやりとりを経て必要書類の内容を確定し、必要書類が揃った段階で正式に申請を行うことになります。なお、フィンテック(FinTech)関連のスタートアップであれば、まずは金融庁のFintechサポートデスクに相談して手続を進めるほうがスムーズに行く場合が多いかもしれません。
(こちらのリンクを参照:https://www.fsa.go.jp/news/27/sonota/20151214-2.html)。
 
ライセンス取得後は、所管官庁の監督下に入り、所定の年次報告書の提出を含めた適用法令の遵守を求められることになります。また、業界の自主規制団体に加入して情報収集に努めるのが一般的であり、さらに業界の自主規制も遵守しつつビジネスを行うことになります。

 

4 体制整備の実践的アプローチ

ライセンス取得の事前相談及び審査手続の中で、ライセンス付与の要件を満たすだけの体制整備がなされているか、所管官庁の担当者によるチェックを受けることになります。どのような体制整備が必要となるかは取得するライセンスによって異なるので、取得するライセンスの要件を確認する必要があります。
 
例えば、金融商品取引業であれば、各種社内規定の整備が必要となるし、特に法令遵守のためのコンプライアンス体制についてチェックを受けることになるでしょう。体制整備の程度は、申請者の想定するビジネスの規模にもよるところであり、幅広く大きなビジネス展開を行うのであれば、それ相応の人員体制も求められることになるでしょう。もっとも、小さなスタートアップによるファーストステップの段階では、通常、小さくビジネスをスタートすることから始めると考えられ、複数の役職の兼務を含めた少ない人員体制であっても認められ得るところです。但し、顧客と接する現場の営業部門である第1線と、現場の職務遂行をチェックするコンプライアンス担当部門である第2線とでは、異なる従業員が担当することを求められるのが通常です。これは第2線による第1線への牽制機能の発揮が求められるためです。コンプライアンス担当者については、通常、それ相応の職務経験が求められ、適切な人材の確保に苦労する場合が多いところです。
 
体制整備にあたっては、必要な人材の確保に苦労する場合も多いです。小さな組織の場合、他の従業員とそりが合う合わないといった問題もありますので、創業者の伝手や、エグゼクティブ・サーチといった外部業者を利用するなどして、早めに適切な職務経験者を探すアンテナを立てておいたほうが良いでしょう。

 

5 最後に

ビジネスモデルを検証し、所管官庁への照会なども経た結果、サービス開始前にライセンス取得が必要であることが明らかとなった場合には、当該サービスを開始するためにはライセンスを取得するほかありません。ラインセンスを取得するためには、取得申請の審査段階で、ラインセンス取得後にきちんとビジネスを継続できるような体制整備が求められますし、また、ライセンス取得後も監督官庁の監督下に入り、所定の年次報告書を提出するなど法令遵守の継続が求められます。さらに自主規制団体への加入や業界の自主規制の遵守も求められる場合もあります。
 
規制業種においてラインセンスを取得して参入する場合には、その後、それ相応の管理コストが継続して発生することを覚悟しておく必要があるでしょう。そのため、もし、ビジネスモデルの修正によりライセンス取得が不要となる道が残されているのであれば、検討に値するところです。
 
以上
 

著者等

パートナー

町田 行人 Yukihito Machida

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