[コラム] A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #01 ビジネスモデルの適法性のチェック方法と留意点

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ビジネスモデルの適法性のチェック方法と留意点

A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #01
2024.1.22
執筆者: 町田行人弁護士(パートナー)

1. はじめに

スタートアップが新しいビジネスを始める場合、提供するサービスにどれだけのニーズが見込めるのか、採算はとれるのか、マーケティングなどの観点からビジネスモデルを検討するのは当然ですが、加えて、はたしてそのサービスは適法に提供できるのか、違法な行為を含んでいないか、適法性の観点からビジネスモデルをチェックすることも極めて重要です。
 
人々が安心して社会生活を送ることができるように、様々な観点から各種業法などによる法規制が存在しています。提供するサービスが法令に違反する違法な行為を含んでいれば、行政当局から指摘を受けるなどしてサービスを継続することが難しくなりますし、悪質と判断されれば刑事罰の対象となるおそれもあります。新規にビジネスを始めるにあたっては、ビジネスモデルの適法性を確認しておくことは必ず必要な作業です。その検討過程において、違法行為の懸念が見つかったときには、端的に取りやめるべきか、ビジネスモデルの修正をすれば適法にサービスを提供できるのか、あるいは所定のライセンスの取得さえすれば適法に行うことが可能なのかなど、検討していくことになります。
 

2. チェック方法と留意点

スタートアップの創業者は、通常、ビジネスのアイデアを創造することに大変秀でていらっしゃると思いますが、なかなか各種業法などによる法規制についてまで精通するのは難しいと思います。
 
やはり通常は、法律の専門家である弁護士と共にビジネスモデルを検証し、提供するサービスが違法行為を含んでいないか検討することになるはずです。まずは創業者の頭の中にあるビジネスモデルのアイデアを弁護士と共有し、ブレインストーミングから始めることになるでしょう。どのような法規制が関係してくるかは、ビジネスモデルによって千差万別ですので一概には言えませんが、もし、まだ世の中に存在しない全く新しいサービスを始めるのであれば、隠された法的問題にどの程度気づくのかは相談を受けた弁護士の専門性、経験、法的センスなどによるかもしれません。その意味では、世の中に存在しない全く新しいサービスを始めるならば、複数の弁護士に相談してセカンドオピニオンをとっておくか、あるいは様々な分野の専門家がいる大規模な法律事務所に相談するなど、様々な弁護士の意見を聞いておくのが望ましいと考えられます。
 
次に、ビジネスモデルの検証にあたり、一般的な主要チェック項目として2点ほど挙げるとすれば、①どのような分野・業種のサービスなのか、②誰に対して提供するサービスなのか、を挙げられます。
 
例えば、金融や医薬・医療機器といった分野であれば、利用者保護や安全性の観点から規制が強いことが想像できるでしょう。また、専門知識の乏しい一般的な利用者を相手にサービスを提供する場合には、利用者保護の必要性があることが思い浮かぶし、他方、専門知識の豊富なプロを相手とするのであれば、規制が緩やかであったり、あるいは規制の適用除外となっている可能性があるかもしれないと推測できるところです。この2つの主要チェック項目を確認することによって、ある程度、規制対応の必要性の度合いを掴むことができる場合もあると考えられます。   
 
なお、まったく斬新な新サービスということであれば一から検討するほかありませんが、もし、世の中に類似のサービスが存在するならば、それを調査することから始めることになります。もちろん類似のサービスが実施されているから大丈夫というわけではなく、自らのサービスについて独自に適法性を検討する必要があることは当然ですが、類似のサービスを検証することは、自サービスの適法性を検証する有力な手掛かりとなると考えられます。以下、スタートアップの参入の多い3つの分野の法規制について、主要なポイントにフォーカスして説明します。

 

3. フィンテック(FinTech)分野での法規制

フィンテック(FinTech)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、一般的に、金融サービスと情報技術を結びつけた様々な革新的な動きを指すと言われています。そのため、金融庁の所管する金融商品取引法や資金決済法をはじめとする金融関連法令が関係してくる可能性が高く、ビジネスを開始する前に金融庁への届出・登録・認可などが必要となる可能性があります。また、届出・登録・認可を受けた後も金融庁の監督のもとでビジネスを行うことに留意する必要がありますし、業界団体による自主規制にも目を配る必要があります。想定するビジネスモデルによって、どの法令に基づくどのライセンスが必要となるか異なる可能性もあります。そのため、より負担の軽いライセンスに基づくビジネスを行うために、適宜ビジネスモデルを修正することも考えられます。なお、金融庁のFintechサポートデスクにおいて、フィンテック(FinTech)分野の相談を受け付けているので、どのようなライセンスが必要となるのかこちらに相談することも考えられるでしょう。(こちらのリンクを参照https://www.fsa.go.jp/news/27/sonota/20151214-2.html)。
 
いずれにせよお金の取扱いを主たるビジネスとする場合には、相応の管理体制を構築し、顧客からの信頼を得る必要があることに留意する必要があります。

 

4. バイオテック(Biotech)分野での法規制

バイオテック(Biotech)とは、バイオロジー(Biology)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、細胞および生体分子のプロセスを利用し、人間の生活と地球環境の改善に役立つ技術と製品を開発するための技術の意味で使われているようです。1970年代に遺伝子工学が発展したのを機に、急速に研究・開発が進んだ分野の1つで、身近な事例としては遺伝子組換えや細胞融合などが挙げられます。
 
バイオテックについては、医療から農業まで様々な分野が想定され得るところですが、例えば、医薬関連の規制としては、厚生労働省の所管する「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(いわゆる薬機法)に基づく医薬品等に係る製造・販売規制(許可・登録制度)があります。また、農業関連の規制としては、農林水産省の所管する種苗法を含めた各種法令が関連する可能性があります。
 
いずれにせよ人々の身体の安全に関わる分野であり、安全性の確保のために相応の規制が設けられていることは理解しておくべきでしょう。
 

5. データプライバシー分野での法規制

近時、様々な個人データが公告などのビジネスに利用されるようになり、個人のプライバシー保護との関係で緊張が高まっています。
 
個人データを利用したビジネスを展開する場合には、個人情報保護委員会の所管する「個人情報の保護に関する法律」(いわゆる個人情報保護法)を遵守する必要があります。個人情報保護法では、生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報を「個人情報」として、また、「個人情報データベース等」を構成する、例えば名簿に含まれる氏名・誕生日・住所・電話番号などの個人情報を「個人データ」として、保護の対象としています。個人情報や個人データを取り扱う場合には、①取得・利用、②保管・管理、③第三者提供、④開示請求等への対応において、所定の対応を行う必要があります。平たく言えば、本人の意図に反して勝手に個人情報を利用したりせず、取得した個人情報は適切に保管することが求められています。
 
近時、個人情報の利活用ビジネスが注目されており、スタートアップが活躍できる可能性を秘めた分野と言えるでしょう。個人データの持つ価値についても見直されている時代において、個人のプライバシー保護とのバランスをどのように取るべきか、今後も絶えず法令の見直しがなされる可能性のある分野であり、うっかりと法令違反をしていたということがないように最新の動向に着目していく必要があります。

 

6. 最後に

スタートアップの参入の多いいくつかの分野について典型的に想定される法規制を例示してみましたが、これはほんの一部に過ぎません。様々な分野において、様々な法規制が存在しており、具体的なビジネスモデルを踏まえて個別に適法性を検討していく必要があるところです。
 
ビジネスモデルの固まる前の段階であれば、適法性の観点も踏まえたビジネスモデルの修正も比較的やりやすいでしょう。できるだけ早期のブレインストーミングの段階から法律の専門家である弁護士にも参加してもらい、違法行為を含まないビジネスモデルに仕上げていくのが望ましいと考えられます。
 
以上
 

著者等

パートナー

町田 行人 Yukihito Machida

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