[コラム] A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #03 業務委託契約・秘密保持契約の留意すべきポイント

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業務委託契約・秘密保持契約の留意すべきポイント

A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #03
2024.2.5
執筆者: 権藤孝典弁護士 (アソシエイト)
 
業務委託契約と秘密保持契約は、ビジネスを進めるうえで避けては通れない契約で、スタートアップでもこれらの契約には頻繁に触れることになります。そこで今回は、業務委託契約と秘密保持契約を締結する上で留意すべきポイントを簡単にお話しします。

 

業務委託契約

業務委託契約は、一定の業務を外部にやってもらう際に交わされる契約で、システム開発、広告活動、フリーランス人材の活用等さまざまな場面で用いられています。
 
契約書の内容によってはトラブルにうまく対処できなかったり、自社に不利益をもたらすこともあるため、以下の点に留意して契約書を確認しておくことが重要です。
 

1. 自らの立場(委託者or受託者)を明確に意識

委託者側か受託者側かで、契約書の見るべきポイントや有利・不利の判断が変わってきます。そのため、自らの立場(委託者or受託者)を明確に意識して、各条項が自社にどのような影響をもたらすか具体的にイメージしながら契約書をチェックしていくことが大切です。

 

2. 委託する業務の明確性

委託する業務内容が明確になっていないと、どのような業務をどの範囲でやるべきかについて、委託者・受託者間で共通認識を得られず、トラブルとなることもあります。どのような業務に対していくら報酬が支払われるかという指標にもなるため、業務の明確性は、委託者側・受託者側いずれの当事者にとっても重要となります。

 

3. 報酬・費用に関する規定

ビジネスにおいてお金の部分は最も大事な要素の一つなので、言うまでもないかもしれませんが、報酬の支払条件(支払期日、支払方法、振込手数料の負担等)を明確に定めておくことはとても重要です。毎月定額制、タイムチャージ、成果報酬型等さまざまな支払条件があると思いますが、いずれの場合も条件に疑義が生じることのないよう、明確に定めておくことが重要です。
 
また、業務の履行に際して必要となる費用について、報酬に含まれるか否か明確にしておいたほうが良いでしょう。
 

4. 知的財産権の帰属・利用

受託者が業務を履行する上で成果物が発生する場合、その成果物の知的財産権の帰属や利用についてもしっかり規定しておくべきです。
 
(1) 委託者の場合
 
知的財産権は当然には委託者に移転しないので、委託者側として権利を持っておきたい場合には、知的財産権が委託者に移転する旨を明確に規定しておくことが必要です。特に著作権の場合、著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利については、譲渡の目的として明記されていないと譲渡されないため(著作権法第61条第2項)、契約書でも「知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は…委託者に帰属する」のような形でしっかり明記しておく必要があります。著作者人格権については譲渡の対象とすることができないため(著作権法第59条)、受託者が著作者人格権を行使しない旨定めておくのが望ましいです。
 
一方、受託者がどうしても知的財産権の譲渡を拒む場合には、委託者が必要な範囲(利用目的、媒体、方法、期間等)で成果物を利用できるように定めておくことが必要になります。
 
また、知的財産権の譲渡を受けたり・利用できるようにしておく場合、その譲渡対価・利用対価等について後々トラブルとなるのを防ぐため、これらが報酬の中に含まれる旨も定めておいたほうが良いでしょう。
 
(2) 受託者の場合
 
契約上、成果物の知的財産権が委託者に移転することとなっている場合、受託者としては、当該知的財産権を今後も別の案件等で利用する可能性がないか等を考慮して条項修正の要否を検討する必要があります。
 

5. 損害賠償関係

契約の履行に関連して相手方に損害を負わせた場合の賠償責任に関する規定については、委託者と受託者で利害が大きく分かれるところです。
 
契約上、主に報酬支払債務のみを負っている委託者は、賠償を受ける側になるケースが多く、損害を受けた場合にしっかりと賠償してもらえる形となっているかが重視されます。具体的には、直接損害や通常損害のみならず、逸失利益、派生的損害、弁護士費用等まで賠償範囲としてカバーされているとベターです。
 
一方、受託者は、契約に基づき業務を履行する中で様々な賠償リスクを負う可能性があることから、できれば賠償範囲を限定し、賠償額の上限も定めておきたいものです。ただ、この点は委託者の利害と真っ向から対立するため、受託者側の要望を全て受け入れてもらうのは難しいケースが多いと思います。そのため、受託する業務の内容、損害拡大の可能性、保険での対応等、諸々の事情を考慮して賠償リスクの大きさを判断し、許容できる範囲に抑えられるよう交渉することがポイントになってきます。
 

6. 解除条項

特に無催告解除事由については、実際に受け入れて問題ないか念のため一つ一つ確認しておいたほうが良いです。例えば、たまに資本減少、主要な株主・取締役の変更、事業譲渡等が無催告解除事由に挙げられていたりするのを見ますが、スタートアップの場合、こういった出来事が起こることも珍しくないので、「近い将来起こり得ないか…」、「契約解除された場合の会社へのインパクトは…」といったことを具体的に考慮して、解除事由を確認しておくと良いかと思います。

 

7. 運用上問題ないか

実際に契約を履行していくうえで、「無理がないか」といった観点からの検討も重要になります。例えば、委託者がいつでも受託者の会社に立ち入って業務状況を確認できるといった規定があるような場合に、実際に急な立入検査されてしまうと結構迷惑だったりしますし、委託者から借りている資料を複写する場合に毎回事前承諾が必要という規定がある場合などは、複写の頻度によっては非常に手続きが面倒だったりすることもあるかもしれません。こういった、運用上「ちょっとキツイ」と感じるものについては、ストレスなく契約を履行できるようにするため、条項の削除や修正の交渉を行ったほうが良い場合もありますので、そういった観点からも確認しておくとよいでしょう。

 

8. その他

他にも留意すべきことはたくさんありますが、上記のポイントをしっかり押さえられていれば、問題が起こったとしても致命傷を負うことはないように思われます。実際に契約書をチェックする場合は、「こういったものは相手方に削除・修正を求めて大丈夫なものか…」「この条項は民法の規定とかと比べてどうなんだろう…」などと思うこともあるかもしれませんが、そのような場合には弁護士に相談してみても良いかもしれません。

 

秘密保持契約

秘密保持契約は取引の検討段階や、業務の履行に際して開示される相手方の情報の取り扱いを定めておくものです。秘密保持条項として契約書の一部に埋め込まれている場合もあります。秘密保持契約で留意すべきポイントは以下のとおりです。

 

1. 情報開示側or情報受領側どちらか

まず、当事者双方が情報を開示するようなケースで、自社のみが秘密保持義務を負う形となっているような場合には、両当事者が秘密保持義務を負う平等な形に修正しておいたほうが良いでしょう。
 
その上で、自らが主に情報開示側・情報受領側のどちらになるかでチェックすべきポイントや有利・不利が変わってきますので、この点を意識して確認することが重要です。
 

2. 秘密情報の定義

秘密保持の対象となる秘密情報の定義は明確である必要があります。たまに秘密情報の定義を「~事業における秘密」などと定義している契約書を見ますが、何をもって「秘密」といえるのかが不明確で、後々「秘密情報」として管理すべきか否かでトラブルになりかねません。疑義が生じない明確な定義にしておきましょう。
 
その上で、主に情報提供側となる場合は、できるだけ秘密情報として管理される情報の範囲が広くなるように、「開示された全ての情報」などの形で秘密情報の定義を定めておくことが考えられます。
 
一方、主に情報受領側となる場合は、秘密情報として管理しなければならない情報の範囲を限定できるよう、「秘密である旨明示された情報」などの形で定めておくことが考えられます。

 

3. 第三者への開示制限と目的外利用禁止

秘密保持契約書を見ていると、第三者への開示制限は当然規定されていますが、目的外利用禁止について規定されていないことがたまにあります。自社が主に情報開示側となる場合には、契約の履行目的以外に利用されることのないよう、目的外利用禁止についてもきちんと規定されているかチェックしておきましょう。

 

4. 秘密保持期間

情報ごとに重要性が異なり、長期にわたって管理コストをかけるべきではない場合もあるため、主に情報受領者側となる場合は、妥当な秘密保持期間を定めておくべきといえます。実務上は、1年から5年程度で定められることが多いです。

 

5. その他

委託者側としては、情報管理を徹底する観点から、委託者側による秘密情報の複製を制限したり、契約終了時に限らず適宜、秘密情報の破棄・返却を求められるようにしておくことも考えられます。情報の重要性等を考慮し、必要に応じて、これらの条項の要否も検討すると良いように思われます。
 
以上

著者等

アソシエイト

権藤 孝典 Takanori Gondo

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