[コラム] A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #11 IPO審査において満たしておく事項とは

header-startupipocolumn.png

IPO審査において満たしておく事項とは

A&Sスタートアップ法務の羅針盤 #11
2024.4.1
執筆者: 石原一樹弁護士(パートナー) 

1 そもそもIPOとは何か

IPOとは、「Initial Public Offering」の略をいい、日本語では「新規株式公開」といいます。これは、株式会社が、証券取引所を通して、機関投資家や一般投資家に株式を公開することで、株式市場において取引できるようにすることを指します。
 
一般的にIPOを目指す主な目的は、以下の通りです。
 
(1)   資金調達
株式会社は市場から資金を集めることができ、その資金を事業の拡大や開発などに利用します。
 
(2)   株主価値の向上
株式が市場で取引されることで、株主に対する価値が具体的に評価され、株主の利益を増やすことができます。
 
(3)   企業の信用力向上
株式市場に上場することで、企業の透明性が高まり、信用力が向上します。
 

2 IPOのプロセス

IPOのプロセスは複雑で、事業計画の策定、財務報告の準備、監査、証券取引所への申請など多くのステップが含まれます。企業は証券会社と協力して、株価の設定、販売戦略の策定、投資家への情報提供などを行います。
 
IPOは、投資家にとっても新しい投資機会を提供し、企業にとっては成長と発展のチャンスをもたらす重要なイベントです。
 
IPO審査でチェックされる項目として、主として以下のようなものがあります。
 
(1)   ガバナンス
(2)   内部監査体制
(3)   コンプライアンス
(4)   利益(予算)計画
(5)   決算開示体制(IR)
 
ガバナンス:
企業ガバナンスは、会社の運営における意思決定プロセスや管理体制のことです。IPO審査では、会社が透明かつ効率的に運営されているか、利害関係者の権利が保護されているかなどをチェックします。
 
内部監査体制:
内部監査体制は、会社のリスク管理、コントロール、ガバナンスプロセスの有効性を評価するための体制です。IPO審査では、内部監査が独立性を持ち、十分なリソースと権限を有しているかを評価します。
 
コンプライアンス:
コンプライアンスとは、会社が法律、規則、指導原則などを遵守していることを確保する体制のことです。IPO審査では、適切なコンプライアンスプログラムが設置されており、有効に機能しているかが評価されます。
 
利益(予算)計画:
利益計画、または予算計画は、会社の財務目標や事業戦略を定めるものです。IPO審査では、現実的かつ達成可能な利益計画が立てられているか、また計画に基づいた適切な管理がなされているかをチェックします。
 
決算開示体制(IR):
決算開示体制とは、投資家に対して会社の財務情報や経営状況を適時に正確に伝える体制のことです。IPO審査では、公正かつ透明な情報開示がなされているか、投資家との適切なコミュニケーションが取れているかが評価されます。
 
これらの項目は、公開市場における透明性と信頼性を保つために不可欠です。審査過程では、これらの要素がしっかりと整っており、投資家や市場参加者に対する正確な情報が提供されることが確認されます。
 

3 IPO審査の流れ

(1)事前準備 (1-2年前)
事業計画と内部統制の整備
IPOを目指す企業は中長期的な事業計画・資本政策を策定します。社内規程の整備を始めとする、内部監査体制、内部統制システムを構築します。
 
財務諸表の整理
月次決算を始め上場企業に求められる水準で決算書の透明性を高め、監査された財務諸表を準備します。
 
(2)証券会社の選定
主幹事を引き受けてくれる証券会社を選定します。証券会社から連絡が来ることもありますが、基本的には企業側から連絡をし、面談を経て決定します。
 
(3) IPOに向けた準備 (N-1期~)
IPOの詳細情報を記載した証券登録申請書を準備します。財務資料のみならず、事業概要、企業の成長性等を記載します。
監査法人に対して、財務報告が正確であることを保証するための監査を実施してもらい、問題がないことの意見をもらいます。
 
(4)証券取引所への申請
証券会社を通じてIPOを行うための証券取引所への申請を行います。
申請後、証券取引所からのヒアリングが複数回実施されます。疑問点や指摘事項を解消していきます。また、実地調査が入ることがあります。役員は別途審査官との面談が設定され、経歴やこれまでの経験、上場会社の役員としての心構え等が聞かれることが多いです。
 
(5) ロードショー (N期)
経営陣は、機関投資家やアナリストを対象としたプレゼンテーション(ロードショー)を行い、企業価値をアピールします。
証券会社を通じて、株式の発行価格を決定します。
 
(6)公開申込みと配分
証券会社が決めた枠に応じて、一般投資家や機関投資家からの申込みを受け付け、株式を配分します。
 
(7)株式公開 (IPO)
決められたIPO当日、株式が証券取引所で取引開始されます。
このスケジュールは、企業の規模や事業の性質、市場の状況などによって、また審査の内容によって異なる場合があります。
​​​​​​​

著書

シニアパートナー

石原 一樹 Kazuki Ishihara

お問い合わせ

関連リンク