[コラム] 「民訴法学あれこれ #08 訴えの利益」:高橋宏志(顧問)
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訴えの利益
私は、50年以上、民訴法の研究者として過ごしてきた。その間に、民訴法学もずいぶんと変わったと言うことができ、そのいくつかを綴ってみることとする。老爺の語る今は昔、の物語である。
今回は、訴えの利益を取り上げる。同じく訴訟要件である当事者適格が、紛争解決の必要性・実効性を当事者(訴訟の主体)に着目して判断するものであるのに対して、訴えの利益は訴訟の客体(訴訟の対象)に着目して判断するものとなる。すなわち、裁判所が時間と労力を掛けて解決すべき紛争であるかどうかを見るものである。歴史的に見るならば、訴えの利益は、19世紀半ばに確認の訴えが一般的な訴訟類型として確立したことに付随して浮上した訴訟要件である。確認は、性質上、その対象は無限定である。たとえば、教室設例としてよく採り上げられる自分の飼い猫が死んだことの確認を求める訴えを考えてみよう。飼い主である原告にとっては、飼い猫の死を裁判所によって確認してもらうことは、なにがしかの慰めとなる意味があろう。しかし、多くの訴えを処理しなければならない裁判所、あるいは社会一般から見れば、それは裁判所が扱うべき訴えであろうか。ここから、確認の訴えにおいて訴えを提起するだけの利益が必要とされるに至ったのである。そして、こう考えてみると、事態は確認の訴えほどではないが、給付の訴え、形成の訴えでも同様であることが認識され、三種の訴訟類型すべてに通ずる訴えの利益という概念が確立した。とはいえ、実際上、問題となることが多いのは確認の訴えであり、確認の訴えにおける訴えの利益を、慣行上、確認の利益と称している。その確認の利益判断の要諦は、原告に法的な不安または危険があり、確認判決をすることがその不安や危険の除去に有効適切であるか、ということである。即時確定の利益とも呼ばれる。
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- 発行年月
- 2025.11
- 掲載先
- 著者等