[コラム] 「霞が関からのつぶやき #08 情報化社会に即した刑事手続」:安冨潔弁護士(顧問)

情報化社会に即した刑事手続
電子令状と電磁的記録提供命令について

霞が関からのつぶやき #08

2025.11.7

1 はじめに

2025年5月16日、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第39号)が成立し、同月23日、公布されました。

 

この法律は、近年における情報通信技術の進展及び普及に伴い、刑事手続等においても、情報通信技術を活用することにより、手続を円滑・迅速なものとするとともに手続に関与する国民の負担軽減を図り、情報通信技術の進展等に伴う犯罪事象に適切に対処することにより、安全・安心な社会を実現するため、刑事訴訟法、刑法その他の法律を改正するものです[1]

 

この法律の改正は、多岐にわたることから、ここでは刑事訴訟法の改正で新たに設けられた「電子令状」と「電磁的記録提供命令」についてについてご紹介したいと思います。

 


[1] https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000121720250327012.htm

 

 

2 改正法の概要

この法律は、

① 刑事手続等において取り扱う書類について、電磁的記録をもって作成、管理、発受することを可能にするための規定の整備

② 刑事手続等において関係者が対面する形で行われる手続について、ビデオリンク方式の一層の活用を可能にするための規定の整備

③ 情報通信技術の発展等に伴う犯罪事象に適切に対処するための規定の整備

を内容としています。

 

(1)電磁的記録をもって作成・管理・発受する書類[2]

ア 訴訟に関する書類の電子化

(ア)紙媒体から電磁的記録をもって作成する書類

電子情報処理組織を使用する方法(オンライン)による裁判所に対する申立て(同第54条の2第1項)、電磁的記録による供述調書の作成手続(同第198条第4項、5項等)、電磁的記録である証拠書類の証拠能力(同第321条、321条の2、321条の3、322条、323条、325条、326条~328条)

(イ)電磁的記録として作成・管理された証拠書類・証拠物の開示

電磁的記録である訴訟に関する書類または証拠物の閲覧・謄写の方法(同第40条1項、40条の2等)、証拠書類や証拠物である電磁的記録の閲覧・視聴の機会(同第299条第1項、第316条の14第1項等)、その場合における電磁的記録の複写・印刷する機会やその内容の記載・記録の機会(同第316条の14第1項第1号ロ及び第2号ロ等)、電磁的記録による証拠の一覧表の作成・提供(同第316条の14第2項)

(ウ)その他

電子情報処理組織を使用する方法(オンライン)による告訴・告発(同第241条1項)、電磁的記録による公判調書・判決書の作成(同第48条2項、第46条2項等)

イ 電磁的記録による令状[3]

電磁的記録による令状発付(同第199条3項、第218条6項等)、電磁的記録令状の執行(201条2項2号等)、電磁的記録による令状に記録されるべき事項等(同第200条1項等)

ウ 電磁的記録を提供させる強制処分[4]

(ア)電磁的記録提供命令の創設(同第102条の2第1項、第218条第1項等)、秘密保持命令(同第218条3項)、電磁的記録の提供の拒絶(同第105の2・第222条1項等)、不服申立て(同第420条2項・第430条等)、罰則(同第124条の2・第222条の2等)

 

(2)ビデオリンク方式の活用[5]

ア 勾留質問及び検察官による弁解録取

(ア)裁判官による勾留質問

収容中の刑事施設に被疑者を在席させたビデオリンク方式による勾留質問(同第61条2項前段・後段、第207条1項等)

(イ)検察官による弁解録取

刑事施設に被疑者を在席させたビデオリンク方式による弁解録取(同第205条1項・2項)

イ ビデオリンク方式による裁判所の手続への出頭・出席

(ア)被告人および弁護人の出頭

公判期日における手続(同第286条の3第1項)

(イ)被害者参加人またはその委託を受けた弁護士の出席

被害者参加人等から申出によるビデオリンク方式による手続(第316条の34第5項)

ウ 証人尋問の実施[6]

構外ビデオリンク方式による証人尋問(同第157条の6第2項第4号~8号)、当事者 による異議がない場合の証人尋問(同第157条の6第3項)

 


[2] 令和9年3月31日までの政令で定める日に施行されます。

[3] 令和9年3月31日までの政令で定める日に施行されます。

[4] 令和8年5月22日までに施行されます。

[5] 令和9年3月31日までの政令で定める日に施行されます。

[6] 令和8年5月22日までに施行されます。

 

 

3 刑事訴訟法改正の趣旨

刑事手続においては、これまで書類が紙媒体で作成・管理・発受されることを想定して刑事訴訟法の規定が設けられています。

 

捜査手続の過程で作成された調書等の書類は証拠として紙媒体で管理され、それらをまとめた記録は司法警察員から検察官に送致され、公訴の提起は、起訴状を提出してしなければならず、公判期日において証拠調べがなされて、被告事件が終結した後には、当該被告事件の訴訟記録が紙媒体で保存されて開示の対象となっています。

 

また、弁解録取、被疑者の勾留質問といった捜査段階の手続は、検察官や裁判官が被疑者と対面して行われ、公判前整理手続や公判期日の手続は、一部の証人尋問等がビデオリンク方式でできることとなっているものの、裁判官、検察官、弁護人及び被告人、被害者参加人等がそれぞれ裁判所の法廷に出頭する形で行われています。

 

しかし、情報化社会の進展に伴って、様々な分野で情報通信技術を用いた情報の活用が行なわれるようになり、刑事手続においても情報通信技術を活用することにより、手続を円滑・迅速なものとするとともに、手続に関与する国民の負担を軽減することが課題とされてきました。

 

そこで、「書類」を「電磁的記録」により作成・管理・発受することで、事務の効率化が図ることができること、またビデオリンク方式をこれまでより拡充して活用することで、一般人を含む刑事手続に関与する者の負担軽減や手続の円滑化・迅速化を図ることができることから、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が第217回国会に提出されて、慎重な審議を経て成立しました[7]

 

ところで「電磁的記録」は、1987年の刑法一部改正において「電子的方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ認識スルコト能ハザル方式ニ依リ作ラルル記録ニシテ電子計算機ニ依ル情報処理ノ用ニ供セラルルモノヲ謂フ」(平成7年法律第91号による口語化により現行法の規定に改められた)と定義した規定(刑法第7条の2)が新設されました。

 

この電磁的記録は、一定の記録媒体の上に情報あるいはデータが記録、保存されている状態を表す概念で、情報あるいはデータそれ自体や記録媒体そのものを意味するものではありません[8]

 

電磁的記録は、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られ」かつ「電子計算機による情報処理の用に供される」という記録です。したがって、電磁的記録は、可視性・可読性を有する文書とは異なるものであって、コンピュータによる情報処理に用いられる記録ということになります。

 

2011年の「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第74号)において、記録命令付差押え(第218条1項等)の制度が新設された際に、電磁的記録を記録媒体に記録させた上で差し押さえることとされ、「電磁的記録」という用語が刑訴法に導入されましたが、電磁的記録の定義規定は刑事訴訟法に設けられませんでした。

 

刑事訴訟法で電磁的記録の定義規定が設けられたのは、この「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第39号)においてです[9]

 


[7] なお、この法律は、衆議院において、電磁的記録提供命令を受けたこと等を漏らしてはならない旨の命令(秘密保持命令)における期間について1年を超えない期間を定めること(第218条第3項)、電磁的記録提供命令等における留意事項(附則第40条)、被告人等と弁護人等との間における映像等の送受信による通話に係る取組の推進(附則第41条)等の規定を追加する修正が行われました。

[8] 米澤慶治編『刑法等の一部改正法の解説』61頁(立花書房、1988)

[9] 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるために使用されていると認めるに足りる状況にあるものをいう。以下同じ。)又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる(第99条第2項)。

なお、この第99条第2項は、2026年5月23日までの間で政令で定める日から施行されますが、2027年3月31日までの間で政令で定める日から施行の改正法では第40条1項の改正により、同条項に規定されることとなっています。

 

 

4 新しく創けられた制度

(1)電子令状

 

これまで捜査機関による令状の請求は「書面」でこれをしなければならず(刑事訴訟規則第139条1項)、また、逮捕状や捜索差押許可状等の令状には裁判官の「記名・押印」が必要とされ(刑事訴訟法第200条1項、207条1項・第64条1項、第219条1項等)、令状の請求・発付は紙媒体で行うことが前提とされるとともに、その執行に当たっては、原則として、被処分者に書面の令状を提示する(第201条1項、第207条1項・第73条、第222条1項・第110条)こととされていました。

 

そのため、捜査機関が令状の発付を受けてこれを執行するためには、裁判所に赴いて紙媒体で発付された令状を受領し、それを令状執行する場所まで持参する必要がありました。裁判所と離れた場所における令状執行には捜査機関の負担が大きく、迅速な捜査の遂行に支障が生じる要因ともなっていたのです。

 

そこで、令状の請求・発付・執行において情報通信技術を活用し、捜査機関は「電子令状」の請求を、請求書及び疎明資料を電子データとしてオンラインで裁判官に送信する方法によって行い、裁判官は令状の発付を、電子データとして作成した「電子令状」をオンラインで捜査機関に送信する方法によって行い、捜査機関は発付された「電子令状」の呈示するにあたってこれを紙面に印刷し、又はタブレットなどの電子計算機の映像面に表示したものを示すなどの方法によりできることなりました。

 

このような電子令状制度が新設されたことにより、捜査機関にとって事務の大幅な効率化が図られ、裁判官の令状審査や令状執行までの時間が短縮されることで刑事手続の円滑化・迅速化に資することになりました。

 

ところで、憲法第33条は「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となってゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」と定め、同法第35条2項は「捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。」とそれぞれ規定していることから、憲法制定時に想定していなかった電子データとして発付する電子令状制度について、憲法が定める令状主義との関係について、どのように考えればよいかが問題となるでしょう。

 

憲法が定める令状主義の趣旨は、処分の対象となる人や場所、目的物について、逮捕や捜索等を行う正当な理由が存在することをあらかじめ裁判官が確認し、対象となる人や場所・目的物を令状に明示することによって、その範囲でのみ捜査機関に処分の実施を許すとすることで、捜査機関の恣意や裁量の濫用・逸脱等による不当な権利侵害の余地を封じるところにあるとされています。

 したがって、令状が紙媒体ではなく電子データとして作成されるとしても、その電子令状において、逮捕の理由となる犯罪や捜索等の処分の対象となる人や場所、目的物が明示され、その内容が捜査機関にとって認識可能であり、かつ、捜査機関がその内容を変更できないことが確保されるなど、紙媒体の場合と同様に令状主義の趣旨を満たすことが確保されるのであれば、令状が電子データとして発付されることとしても、憲法第33条・第35条の趣旨に反することとなるものではないと考えられます。

 

(2)電磁的記録提供命令

 

刑事手続において必要な電磁的記録を強制的に取得する方法として、当該電磁的記録が記録された記録媒体を差し押さえる方法や、当該電磁的記録を記録媒体に記録させた上でその記録媒体を差し押さえる方法が規定されていました。これらの方法による場合には、処分者が被処分者の下に赴いて記録媒体を差し押さえる必要があるだけでなく、電磁的記録それ自体を取得できれば証拠収集の目的が達せられる場合もあり、電磁的記録がクラウドサーバに保存されている場合などには記録媒体の差押えが困難な場合もありました。

 

平成23(2011)年に創設された記録命令付差押え(第99条の2)は、電磁的記録の保管者の協力を得て、必要な電磁的記録を電磁的記録媒体に記録させて、その電磁的記録媒体を差し押さえるものですが、保管者が、その保管する電磁的記録を裁判所や捜査機関が管理する電子計算機にオンラインで送信する方法により提供することができるようにすることによって、必要な電子データの収集という目的を達することができることになって、裁判所や捜査機関にとって負担がなくなるだけでなく、処分を受ける事業者等にとっても、記録媒体を裁判所や捜査機関に提供するための対応や記録媒体の準備等の負担を省くことができることとなります。

 

そこで、記録命令付差押え(改正前の99条の2)を廃止し、新たな強制処分として、有体物である記録媒体の差押えを介在させず、被処分者に対し、電磁的記録の提供を命ずるという電磁的記録提供命令(改正後の102条の2第1項)が新設されました。

 

「電磁的記録提供命令」は、裁判所または捜査機関は、必要があるときは、電気通信回線を通じて電磁的記録を記録媒体に記録させまたは移転させる方法等により、必要な電磁的記録を提供することを命じる命令をいう(同第102条の2第1項)と定義されています。

 

電磁的記録提供命令は、電磁的記録を保管する者又は電磁的記録を利用する権限を有する者に対して、電磁的記録を記録媒体に記録させ又は移転させて当該記録媒体を提出させる方法若しくは電気通信回線を通じて電磁的記録を、その管理に係る記録媒体に記録させ又は移転させる方法により、必要な電磁的記録を提供することを命ずる命令です。これまでは、「差押え」として「記録命令付差押え」により電磁的記録を収集していたものが、電磁的記録の保管者等である被処分者に「電磁的記録」そのものを提供させる義務を負わせて証拠を収集するものです。

 

ところで、憲法第35条第1項は、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」と定めています。

 

この「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」は、プライバシーの期待という利益を保護するものと解されます[10]

 

最高裁判所も、令状なしのGPS捜査は違憲とした判決(最高裁平28(あ)442号同29年3月15日大法廷判決・刑集71巻3号13頁)において、「憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。」と説示して、プライバシーの期待という表現ではないものの「私的領域」という利益を保護するものとしています。

 

電磁的記録(デジタルデータ)は、憲法制定時には存在しなかった新しい形態の情報ですが、憲法第35条1項の「書類」という文言の類推適用または拡張解釈により、電磁的記録は、プライバシーの期待という利益を保護するというものに含まれると解釈してよいと考えます。

 

電磁的記録命令は、憲法第35条1項の令状主義の原則に基づいて規定された強制処分ということができますが、電磁的記録そのものを強制処分の対象としていることが、これまでの記録命令付差押えと異なるところで、裁判官の発する令状には、「提供させるべき電磁的記録」とその提供させる「提供させるべき者」を記載または記録することが必要です。

 


[10] 例えば、酒巻匡『刑事訴訟法』【第3版】117頁(有斐閣、2024)など。

 

 

5 さいごに ~つぶやき~

この法律では、情報通信技術の進展等に伴う犯罪事象に適切に対処するために、電磁的記録によって作成される文書の偽造等(刑法第155条1項等),電子計算機損壊等による公務執行妨害罪(刑法第95条の2等)の新設[11],犯罪収益である暗号資産等の没収の裁判の執行・没収保全等の手続(組織犯罪処罰法第18条の3等)の整備[12],通信傍受の対象犯罪(通信傍受別法第2)の追加[13]がなされています。

 

ところで、この法改正は、捜査機関や裁判所の利便性を大きく向上させることになりますが、刑事手続における被疑者や被告人の防御権の確保が重要であることはいうまでもありません。

 

国会審議でも議論された身体拘束を受けている被告人等が弁護人との接見をビデオリンク方式でできるようにするいわゆるオンライン接見[14]や、被告人等の電磁的記録の閲覧[15]等を十分なものとするなどの課題も運用を通して考えていくべきではないでしょうか。

 

 

<参考資料>

・小山善士・内藤俊介「情報通信技術の進展等に対応する ための刑事訴訟法等の改正に関する国会議論―電磁的記録提供命令の導入等―」立法と調査478号61~78頁(2005)

 


[11] 令和7年6月12日に施行されました。

[12] 令和9年3月31日までの政令で定める日に施行されます。

[13] 令和7年6月12日に施行されました。

[14] 2007年から電話による連絡制度が実施されてきたが、さらに2025年度からTeamsを用いた外部交通(オンライン外部交通)が実施されることとなりましたが、一部の刑事施設に留まっています。

[15]弁護人は、起訴後に、訴訟に関する書類及び証拠物(電磁的記録を含む。)を閲覧・謄写できます(40条)が、被告人には認められていません。

 

 

著者等

顧問/コンサルタント

安冨 潔 Kiyoshi Yasutomi

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