シップファイナンス
外航海運の重要性
日本は四方を海に囲まれた島国であり、資源に乏しいため、国民生活や産業を支える原油、石炭、天然ガス、鉄鉱石といったエネルギー資源のほぼ100%を海外からの輸入に依存しています。さらに、農産物、食肉、木材などの輸入率も非常に高く、これらの原材料の大半は、各種船舶を利用した海上輸送によって運ばれています。また、日本で製造・加工された製品の輸出のほぼすべてが海上輸送(外航海運)によって行われています(2024年~2025年の統計では海上輸送が99.6%、航空輸送が0.4%)。
このように、外航海運は日本の経済活動の根幹を支える生命線といえる存在であり、それは日本のみならず、世界経済の発展にとっても極めて重要です。実際、日本の海運会社が運航する商船隊は、世界の船腹量の約7%を占めており、国際物流における重要な役割を担っています。
シップファイナンスの手法の選択
近年、世界の海上輸送量は年々増加しており、それに伴い船腹量も拡大しています。このような外航商船の新造や購入に必要な資金を銀行、ファンド、機関投資家などから調達する手法は、一般に「シップファイナンス」と呼ばれています。もっとも、具体的な案件においては、以下のような多様な要素を慎重に考慮する必要があります。
(ⅰ)船主(=借入人)の法的地位(設立国、特別目的会社(SPC)かどうか、親会社との倒産隔離の有無など)や財務状況
(ⅱ)傭船者の法的地位および財務状況
(ⅲ)対象船舶の属性(船種、船価、建造計画、船籍国など)
(ⅳ)対象船舶の運航予定航路
(ⅴ)船舶保険のカバー範囲(損害保険会社による保証内容)
(ⅵ)船舶管理会社との船舶管理契約の内容
これらの点を踏まえてうえで、シップファイナンスの具体的な手法として、以下の選択肢があります。
(ⅰ)船主(=借入人)またはその親会社(=連帯保証人)の信用力を重視した「コーポレートファイナンス」型
(ⅱ)傭船者からの安定した傭船料収入を担保とする「プロジェクトファイナンス」型(傭船料債権に譲渡担保権を設定)
(ⅲ)対象船舶の市場価値に着目した「アセットファイナンス」型
(ⅳ)船舶投資ファンドなどを活用するその他のスキーム
どの手法を採用するかは、案件の特性やリスク分析に基づいて慎重に検討する必要があり、シップファイナンスの構築における最重要の判断事項となります。
IMO(国際海事機関)のGHG(温室効果ガス)排出削減目標と日本の海運業界によるネットゼロへの取り組み
IMO(国際海事機関)は、2023年7月に「2050年頃までにGHG排出を実質ゼロとする」ことを目指す新たなGHG削減戦略を採択しました。世界有数の海運国である日本においても、同様にこの目標の実現に真摯に向き合うことが求められています。GHGネットゼロの達成に向けては、現行の重油燃料から、ゼロエミッション燃料(いわゆる「ゼロエミ燃料」)への転換が不可欠です。現時点で有望視されている手段としては、「LNG(液化天然ガス)からカーボンリサイクルメタンへの移行」や、「水素・アンモニア燃料の活用拡大」が挙げられます。
このようなゼロエミ燃料船の普及を推進するためには、まずその建造体制を整備するとともに、既存の重油燃料船をゼロエミ燃料船へと順次代替していく必要があります。しかしながら、こうした建造および代替の取り組みには、長期にわたる多額の投資が避けられず、ここでもシップファイナンスの活用が不可欠となります。
当事務所のシップファイナンスへの取り組み
当事務所は、長年にわたり、国内外の金融機関内、船主、オペレーター、商社、船舶ファンド等をクライアントとし、コーポレートファイナンス型、プロジェクトファイナンス型、アセットファイナンス型、船舶投資ファンド型をはじめとする多様なシップファイナンス・スキームの組成に携わってまいりました。
これまでにシンジケート・ローンを含む融資契約、各種担保関連契約、その他関連契約書の作成、ならびにクライアントご担当者へのリーガルアドバイスを数多く手掛けており、その過程で各種スキームに対応したノウハウを蓄積しております。これにより、個別案件ごとに最適なアドバイスや契約書類等を迅速かつ適確にご提供できる体制を確立しております。
また、クロスボーダーの案件についても、日本法に加え、英国法をはじめとした主要な便宜置船籍国(パナマ、リベリア、マーシャル諸島、香港、シンガポール、バハマ、マン島、ギリシャ等)の現地法の知識が、船籍取得・維持、船舶抵当権の設定登記やその実行において極めて重要です。当事務所は、これらの国々の有力法律事務所および日本国内の関係機関と長年にわたり提携・連携関係を築いており、また外国法共同事業を行う体制のもと、日本弁護士連合会に登録された英国、米国、中国、ドイツ等の外国法事務弁護士も所属しております。そのため、国際的なご照会やご相談に対しても、迅速かつ的確なリーガルサービスを提供することが可能です。
さらに、上記(3)で述べたとおり、重油燃料船からゼロエミ燃料船への移行に不可欠なシップファイナンスの構築についても、船舶投資ファンドの活用等、さまざまなスキームの可能性をクライアント様とともに研究・検討しております。
関連執筆物
- 「我が国を真の海洋国とするためにすべきこと」海事振興連盟機関紙「うみ」60号(2019)
- 「定期用船はオンバラ?オフバラ?IFRSと海運一専門家座談会(上)(下)」海事プレス10月6日、7日(2010)
- 「シップファイナンスは地銀にチャンス」金融ジャーナル1月号(2010)
関連セミナー
- 金融財務研究会主催 2025年5月27日開催、~2025年8月31日配信
「船舶融資におけるリスク管理の実務」 - 海事振興連盟主催 2014年3月11日開催
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