[コラム] 「知っておきたい「ビジネスと人権」#4 人権方針の策定-企業による人権対応 (1) -」:入江克典弁護士(オブ・カウンセル)

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人権方針の策定-企業による人権対応 (1) -

知っておきたい「ビジネスと人権」 #04
2024.6.5
 
前回、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」で求められる企業の責任は、(1) 人権尊重に向けての企業方針(人権方針)の策定、(2) 人権デューデリジェンス(DD)の実施、(3) 人権侵害に対する救済手続き、の3つであると説明しました。今回は、そのうち日本政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」と「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」に基づき、(1) 人権方針の策定のプロセスについて述べたいと思います。
 

自社の人権リスクを把握

まず、人権方針を策定するにあたっては、自社の現状を把握することが何より重要です。社内各部門(例えば、営業、人事、法務・コンプライアンス、調達、製造、経営企画、研究開発)からの情報収集や、関係者(例えば、労働組合、NGO、使用者団体、業界団体)との対話を通じて、自社が関与し得る人権リスクについて検討する必要があります。そのため、企業によって人権方針の内容や記載ぶりは必然的に異なるものとなります。また、より深刻な人権侵害が生じ得る関係者(例えば、外国人、女性、子ども、障害者)の人権リスクには一層の注意を払い、自社の重点課題とすることも考えられます。重点課題は、自社の事業や社会状況によって変化する可能性があるため、定期的に見直しを行う必要があります。

次に、以上の自社の現状把握を踏まえて、人権方針案を作成します。まず、自社の経営理念や行動指針などとの関係で、人権方針がどのような位置付けの文書であるのかを明確にし、それらの文書との一貫性のある方針とすることが重要です。また、人権方針の適用範囲がどこになるのか、例えば、グループ会社をも含むものか否かを明示します。そして、従業員、取引先、および企業の事業、製品またサービスに直接かかわる関係者に対する人権尊重への期待を方針の中に明らかにします。人権方針を実践していくためには関係者の理解が不可欠ですので、自社の人権方針に対する理解や支持を期待すると明示することも考えられます。加えて、企業がその人権方針を具体的にどのように実現していくかを記載します。
 

方針の承認と実践

人権方針案が完成したら、自社のトップを含む経営陣による承認を得ます。取締役会などの法定機関だけでなく、トップを含む経営会議やサステナビリティー委員会といった会議体の承認を得ることもあるでしょう。そして、自社ホームページなどにより一般に公開し、全ての従業員、取引先およびその他関係者に向けて社内外に周知します。勉強会や研修を実施して人権方針に対する認識を深めることも一案です。その後、策定・公表で終わらせることなく、自社全体に人権方針を定着させ、その活動の中で人権方針を具体的に実践していくことが求められます。例えば、人権DDや人権救済を実施すること、ステークホルダーとの対話を実践すること、責任者を配置することが考えられます。

以上のとおり、今回は、企業による人権対応の1本目の柱である人権方針の策定について、その策定プロセスに沿って説明しました。次回は、2本目の柱として、人権DDの実施について述べる予定です。
 
 
※時事速報シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、欧州、米国の各版2024年4月3日号より転載
 

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入江 克典 Katsunori Irie

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