[コラム] 「知っておきたい「ビジネスと人権」#31「アメリカで「ビジネスと人権」に何が起きているのか Vol.2」:入江克典弁護士(パートナー)

知っておきたいビジネスと人権

アメリカで「ビジネスと人権」に何が起きているのか Vol.2

知っておきたい「ビジネスと人権」 #31
2026.8.25

 

前稿では、トランプ政権下の米国でDEI(Diversity, Equity and Inclusion)施策の見直しが進んでいることを紹介しました。その一方で、強制労働やサプライチェーン上の労働搾取に対する規制・執行は、通商政策と結び付きながら一層強化されていますので、本稿では、この観点からの米国の人権規制の展開について説明します。


◇通商政策と連動する強制労働対策
米国通商代表部(USTR)は2026 年3 月から、日本、中国、EU(欧州連合)を含む60 カ国・地域を対象として、各国が強制労働によって生産された製品の輸入を禁止し、その禁止措置を実効的に執行しているかについて、1974 年通商法301 条に基づく調査を実施し、2026 年7 月23 日、日本を含む60 カ国・地域からの輸入に10 ~ 12.5%の追加関税を課すと発表しました(対日本:一般関税率が12.5%未満の場合、一般関税率と追加関税率を合計して12.5%/一般関税率が12.5%以上の場合、追加関税率はゼロ)。USTR は、米国市場への直接的な輸入に限らず、米国で輸入を拒否された強制労働産品が、他国の市場に流入したり、第三国を経由して再び米国へ輸出されたりすることで、強制労働を利用しない米国企業が競争上不利になることも問題視しています。このように、米国は、貿易相手国に対しても米国と同水準の強制労働産品規制を求め、規制を十分に実施しないこと
自体が通商制裁の理由となることを明確に示しました。

 

また、米国労働省(DOL)は2026 年4 月、企業がグローバルサプライチェーンにおける労働搾取リスクを把握するための自己評価ツールを公表しました。このツールは、145カ国以上の労働法違反リスクを確認する「LaborShield」、輸入統計と労働搾取リスクを組み合わせる「ImportWatch」、企業による労働デューデリジェンス構築を支援する「SourcingStrong」、サプライチェーンを一次取引先より先まで可視化するトレーサビリティー・ポータルなどから構成されています。トランプ政権は、これらの取り組みを、人権尊重のみならず、外国の労働搾取から米国産業・米国企業を守り、公正な競争条件を回復するという文脈で説明しています。

 

さらに米国は、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の「迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」を用いて、メキシコの個別工場における結社の自由や団体交渉権の侵害を調査しています。2026 年3 月には、メキシコの鉱山で企業側による組合活動への介入、威圧や報復などがあったとして、紛争処理パネルが「重大な権利侵害」を認定しました。USTR は、この仕組みを米国労働者のための公正な競争環境を守る手段として、引き続き最大限活用する方針を示しています。同年5 月には自動車部品工場、6 月には鉱山施設について新たにRRM が発動され、対象施設からの輸入品に対して、関税手続きの停止を伴う措置が取られています。

 

以上のとおり、現在の米国は、人権保護を自国労働者の保護や不公正貿易への対抗と結び付ける形で規制を積極的に活用しています。日本企業は、米国へ製品を輸出する場合、完成品の製造国だけでなく、原材料、部品、再委託先を含む生産経路を把握し、強制労働への関与がないことを説明できる体制が求められます。また、メキシコなどUSMCA 域内に拠点を持つ企業にとっては、結社の自由、団体交渉、組合活動を理由とする不利益取り扱いが、現地の労務問題にとどまらず、米国への輸出に影響する通商問題へ発展する可能性があります。今後も、どの分野で規制や執行が強化され、自社のサプライチェーンや事業活動にどのような影響が生じるかを見極めることが重要です。

 

※時事速報シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、欧州、米国の各版2026年8月5日号より転載

 

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入江 克典 Katsunori Irie

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