[コラム] 「知っておきたい「ビジネスと人権」#29 「EU オムニバス指令による規制見直し (2)~CSRD~」:入江克典弁護士(パートナー)

知っておきたいビジネスと人権

EU オムニバス指令による規制見直し(2)~CSRD~

知っておきたい「ビジネスと人権」 #29
2026.6.24

 

本稿では、前稿で取り上げた欧州連合(EU)の「企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令」(Corporate Sustainability Due Diligence Directive:CSDDD)に続き、「企業サステナビリティ報告指令」(Corporate Sustainability Reporting Directive:CSRD)について、オムニバス指令によるCSRD の改正に触れつつ、概説します。

CSRD は、企業に対して環境・人権・ガバナンスに関する情報開示を求める制度です。従来の財務情報中心の開示に加え、サステナビリティに関する非財務情報を説明することを目的として導入されました。CSRD は、日本企業であっても、EU 域内に子会社を有する場合や、域内で一定以上の売り上げを有するなどの条件を満たす場合には対象となります(詳細は後述)。

CSRD の特徴として、まず開示対象が非常に広範である点が挙げられます。企業は、温室効果ガス排出量や気候変動対策だけでなく、人権対応、労働環境、サプライチェーン管理、ダイバーシティ、取締役会による監督体制などについても報告する必要があります。また、開示はEU 独自のサステナビリティ報告基準であるESRS(European Sustainability Reporting Standards)に従って行われます。報告の信頼性を基礎づけるため、監査人等の独立した第三者による保証(限定的保証)についても初年度から要求されます。

また、CSRD では「ダブル・マテリアリティ」という考え方が採用されています。これは(1)環境・社会問題が企業に与える影響だけでなく、(2)企業活動が環境・社会に与える影響についても開示を求めるものです。例えば、気候変動が企業収益に与えるリスクだけではなく、その企業自身がどの程度、環境負荷を生じさせているのかに関しても説明する必要があります。

もっとも、企業の開示に対する負担が重すぎるという経済界などの声を反映し、CSRD を含むサステナビリティ関連規制を整理・簡素化したオムニバス改正指令が今年3 月に発効しました。

◇適用企業を大幅限定
オムニバス指令による改正の中で最も重要なのは、適用対象企業の大幅な限定です。改正により(1)EU 域内企業(EU 内の子会社など)については、純年間売上高が4 億5000 万ユーロ超であり、かつ従業員数が1000 人超の企業、(2)EU 域外企業(日本の親会社など)については、EU 域内での純年間売上高が直近2 期連続で4 億5000 万ユーロ超であり、かつEU 域内に純年間売上高2 億ユーロ超の子会社または支店を有する企業に限定されました。これにより、適用対象となる企業数は大きく減少する見込みです。

また、適用開始時期についても延期されました。当初は2024 年度以降に順次適用される予定でしたが、EU 域内企業においては2027 会計年度の2028 年以降の報告、EU 域外企業においては2028 会計年度の2029 年以降の報告が予定されています。加えて、ESRS による開示項目も、企業の負担が重いとの指摘があり、重複の削減や大幅な簡素化が進められています。
日本企業は、オムニバス指令によるCSRD の改正により、自社が適用対象企業に該当するか否かを改めて確認したうえで、ESRS の改定状況を踏まえつつ、開示事項の報告の準備を進める必要があるといえます。また、EU 各加盟国の法制化に留意しつつ、EU や日本に加え、米国など他国のサステナビリティ開示規制も視野に入れ、グループ全体で重複を排除した合理的な計画を策定することが重要です。
 
※時事速報シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、欧州、米国の各版2026年6月3日号より転載
 

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入江 克典 Katsunori Irie

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