[コラム] 「知っておきたい「ビジネスと人権」#27 「ビジネスと人権に関する行動計画 (NAP)」改定」:入江克典弁護士(パートナー)

知っておきたいビジネスと人権

「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」改定

知っておきたい「ビジネスと人権」 #27
2026.4.21

 

2020 年に策定された日本の「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」が2025 年12 月に改定され、近年の国際的な規制強化を踏まえた実効性を意識した内容へと整理されました。

 

改定のポイントとして、優先分野の明確化が挙げられます(NAP 第2 章)。従来は政策分野ごとに整理されていた施策が、人権の観点から横断的に再編され、重点的に取り組むべき領域が以下のとおり8 つに整理されました。これにより、政府施策と企業の行動との対応関係がより明確になり、参照しやすいものになっています。

 

【8 つの優先分野】
①人権デュー・ディリジェンス(DD)及びサプライチェーン
②「誰一人取り残さない」ための施策推進
③ テーマ別人権課題
④ 指導原則の履行促進に向けた能力構築
⑤企業の情報開示
⑥ 公共調達・補助金事業等を含む公契約
⑦ 救済へのアクセス
⑧ 実施・モニタリング体制の整備

 

まず、人権DD の実施が強調されており(優先分野①)、企業には、自社の活動だけでなく、サプライチェーン全体における人権リスクを特定し、防止・軽減し、問題が生じた場合には是正するという一連のプロセスの導入が強く求められています。さらに、対象とする人権課題の範囲が拡大し、本連載でも取り上げてきたAI・テクノロジーや環境と人権といった新領域が示されています(同③)。加えて、外国人労働者やジェンダー平等など、脆弱な立場にある人々の保護に対する具体的な言及(同②)、企業の人権尊重に関する情報開示の重要性(同⑤)や、公共調達における人権配慮(同⑥)、苦情処理・救済メカニズムの整備(同⑦)など、実効性を意識したものとなっています。

 

一方、この改定に対しては、その内容が依然として具体的でなく不十分であると指摘されています。優先分野や施策は示されているものの、その多くが既存の取り組みの延長にとどまり、新たな措置や明確な行動基準、企業が「何を実施すべきか」が十分に提示されていないとの評価もあります。次に「法的拘束力を伴う措置」に対する言及が不足していると指摘されています。国連のビジネスと人権指導原則の観点からは、日本のNAP は依然として自主的対応に依存しており、EU(欧州連合)における人権DD 規制などと比べると制度的な強制力が弱いといえます。さらに、独立した「国内人権機関」の設置に対する言及がない点も指摘されています。国際社会から繰り返し指摘されてきたとおり、企業活動に関する人権侵害の監視や救済へのアクセス確保の観点から、国内人権機関の設置は日本にとって重要な課題ですが、改定版NAP においても具体的な言及がありません。

 

今回のNAP 改定は、日本政府から企業に対する期待の中で示されているとおり(NAP 第3 章)、EU規制などの国際的な潮流の中で実務対応を加速させる契機としての意味を持ちます。したがって、企業は、NAP により法的な義務を課されているものではありませんが、将来的な法制化を見据えつつ、人権体制を整備していくことが重要です。企業は、明確な人権方針の下、人権DD に対する実務対応を進め、サプライチェーン管理を充実したものとし、契約、監査、通報制度などの設置や見直しを実施すること、企業価値に影響を及ぼすものとの認識を深めたうえで情報開示の方法を見直すこと、AIや環境といった新領域に関する人権リスクへの対応を明確な経営課題と位置付けることなどを進めていくことが期待されています。

 

※時事速報シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、欧州、米国の各版2026年4月1日号より転載

 

著者

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入江 克典 Katsunori Irie

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