[コラム] 「知っておきたい「ビジネスと人権」#11 ドイツのデューデリジェンス法とEU指令」:入江克典弁護士(パートナー)

ドイツのデューデリジェンス法とEU指令
知っておきたい「ビジネスと人権」 #11
2024.11.27
EU指令と国内法
本連載第7回で紹介したとおり、今年4月24日に欧州議会で採択された「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」(「EU指令」)は、7月25日に発効となりました。これを受け、最も適用開始が早い企業(欧州連合=EU=域内企業で従業員数5000人超かつ全世界売上高15億ユーロ超、EU域外企業でEU域内売上高15億ユーロ超)においては、3年後である2027年7月26日よりその適用を受けます。またEU加盟国は、これに先立つ2026年7月26日までにEU指令に則した国内法を整備する義務を課されています。
一方、EU加盟国の中には、すでに国内法としてデューデリジェンス法、人権関連法を整備している国があります。例えば、フランスの企業注意義務法は2017年に施行され、ノルウェーの「企業の透明性及び基本的人権とディセントワーク条件への取り組みに関する法律(透明性法)」は2022年に施行されています。オランダでは児童労働デューデリジェンス法が2019年に成立しています(施行日は未定)。
ドイツDD法の規制
ドイツでは、サプライチェーン・デューデリジェンス法(「ドイツDD法」)が2023年1月1日より発効しています。ドイツDD法は、ドイツで本店、主要な事業所などが存在する企業またはドイツ国内に支店を有する外国企業において、従業員1000人以上を雇用する企業を対象に(発効時は3000人以上の企業が対象とされていましたが、2024年1月1日から適用範囲が拡大しました)、サプライチェーンにおける人権(水質汚染、大気汚染、騒音などの環境に関連する一定の場合も含んでいます)の保護に関する義務を課すものです。自社事業領域、直接サプライヤーおよび間接サプライヤーという三階層において、それぞれ異なるレベルで、リスク管理体制の構築、定期的なリスク分析の実施、人権方針の策定・公表、自社事業領域および直接サプライヤーに対する予防策の設定、是正策の実行、苦情処理手続きの構築、年次報告といった義務が課されます。これらの義務に違反した企業は、過料や公共調達に関する契約締結からの除外といった制裁を課される可能性があります。
EU指令に即した修正
ドイツ国内では、EU指令の採択に際して、ドイツ経済界から、欧州企業に過度の負担を課し競争力を不当に弱めるものであるとして強い反発がありました。これは、EU指令がドイツDD法の規制の一部を厳格化するものであることが背景にあります。EU指令の発効により、ドイツDD法のうちEU指令より緩やかな規制を定めている箇所においてはEU指令に則した修正がなされる見込みです。例えば、ドイツDD法は、間接サプライヤー(すなわち直接の取引先でないサプライヤー)の場合には、常にデューデリジェンス(「DD」)の実施の義務を負うものではないのに対し(この点は、従前より国連指導原則の要請に反すると指摘がありました)、EU指令は、直接的な取引先のみならず、当該企業の上流および下流の取引先を広く含むバリューチェーン(chain of activities)を対象としてDDの実施を求めています。この点は、上記のとおり、ドイツDD法が修正されると考えられます。
以上のとおり、EU指令の発効によって、ドイツをはじめとしたEU加盟国の国内法が整備・改正され、2026年までにEU域内において平準化されていく見通しです。日本企業は、EU域内の自社拠点のみならず、EU域内の事業活動を行う国や取引先の国の法制化について注視する必要があります。
※時事速報シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、欧州、米国の各版2024年11月6日号より転載