[コラム] 「知っておきたい「ビジネスと人権」#10 米国における人権関連規制 Vol.2」:入江克典弁護士(パートナー)

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米国における人権関連規制 Vol.2

知っておきたい「ビジネスと人権」 #10
2024.10.23
 
本稿では、米国における規制の続編として、前回取り上げなかった鉱物規制、サプライチェーン透明法(カリフォルニア州)について触れた後、今年(2024年)改訂された国家行動計画(National Action Plan: NAP)について簡単に取り上げたいと思います。
 

ドッド・フランク法

2010年に制定された通称ドッド・フランク法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)は、1502条およびこれを具体化する証券取引委員会(SEC)規則において、紛争鉱物(Conflict Minerals)の採鉱収益がコンゴ民主共和国またはその周辺地域の非人道的な行為を行う武装集団の資金源となることを防ぐことを目的として、米国上場企業に対し紛争鉱物に関する情報開示義務を定める規制を置いています。紛争鉱物として、スズ、タンタル、タングステン、金の4種の鉱物が指定されており、自社製品で使用されているそれらの鉱物の原産地などを調査したうえで、年次で報告しなければなりません。以上の紛争鉱物規制は、紛争鉱物が使用されることの多い携帯電話やパソコンなどの製造業者(SEC登録の上場企業)に影響を及ぼしています。
 

サプライチェーン透明法

2012年に施行されたサプライチェーン透明法(カリフォルニア州)は、企業に対し、サプライチェーンにおける奴隷労働や人身取引を根絶するための取り組みに関する情報を消費者に開示させ、消費者が情報に基づいた選択を行えるように促すとともに、奴隷労働や人身取引の被害者の生活を改善することを目的としています。カリフォルニア州で事業を行い、全世界での年間総収入が1億ドルを超える小売業者または製造業者は、少なくとも以下の5つの事項について、サプライチェーンにおける取り組みの開示が求められています。

 1.検証:奴隷労働と人身取引のリスクの検証を行っているかどうか、また検証にあたり第三者を利用しているか否か。
 2.監査:奴隷労働と人身取引に関する順守状況を評価するためにサプライヤーを監査しているかどうか、また監査が独立していて抜き打ちで行われているか否か。
 3.認証:直接のサプライヤーに対して、製品に含まれる材料が、事業を行っている国や地域の奴隷労働や人身取引に関する法令に準拠していることを証明するよう求めているかどうか。
 4.説明責任の基準と手続き:従業員または請負業者が奴隷労働や人身取引に関する企業基準を順守しているかどうかを判断するための内部説明責任の基準と手続きを整備しているかどうか。
 5.研修:サプライチェーン管理に直接の責任を持つ従業員と管理職に対して、特に製品サプライチェーンにおけるリスクの低減方法に関し、奴隷労働や人身取引についての研修を実施しているかどうか。
 

国家行動計画(NAP)

最後に、米国政府は2024年3月にNAPを改訂し、その骨子の一つとして「企業へのリソース提供」を強調しています。連邦労働省は、バリューチェーンを含む事業活動における労働者の権利の向上のために、情報提供に加えて、政府の視点やアプローチなども掲載したポータルサイト(Responsible Business Conduct and Labor Rights InfoHub)を立ち上げました。また米国政府は、開発などの影響を受ける先住民族や地域社会との協議・関与に関するベストプラクティスを含む企業向けのガイダンスを公表する方針です。さらに国務省は、投資家による人権デューデリジェンス実施のためのガイダンスを策定、公表する予定です。これらの米国政府により提供される多様な情報は、米国における責任ある企業行動のための指針となり、参考となります。
 
※時事速報シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、欧州、米国の各版2024年10月2日号より転載
 

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入江 克典 Katsunori Irie

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