[コラム] 「知っておきたい「ビジネスと人権」#9 米国における人権関連規制」:入江克典弁護士(パートナー)

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米国における人権関連規制

知っておきたい「ビジネスと人権」 #09
2024.9.25
 
本稿では、前回までのEU(欧州連合)・英国に続き、米国のビジネスと人権に関する規制について取り上げます。
 
米国では、連邦レベルで人権に関するデューデリジェンスの実施を課す法律は存在しませんが(2024年8月時点。なお、州レベルでは、カリフォルニア州でサプライチェーン透明法が2012年に施行されています)、人権侵害に関わる国・製品に対する通商規制や経済制裁、公共調達規制などを通じて、間接的に企業に対して人権尊重の取り組みを促しています。これらの規制は、執行された場合に取引が完全に遮断される可能性があり、業績に対して大きく影響します。本稿では、紙面上の制約から要点のみとなりますが、主な規制について順に触れていきます。
 

輸入規制

まず、輸入規制について、関税法第307条(Section 307 of the Tariff Act of 1930)は、強制労働により外国で採掘、生産または製造された商品の米国への輸入を禁止しています。同条に関連し、2021年に制定されたウイグル強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act)は、新疆ウイグル自治区において、または同法のエンティティ・リストに記載された者において製造された商品は強制労働によるものと推定されるとの規定を置いています。また、2017年に制定された敵対者に対する制裁措置法(Countering America's Adversaries Through Sanctions Act)は、商品の原産地にかかわらず、サプライチェーン上において北朝鮮など特定の国籍の者が稼働した場合には、その者は強制労働者であると推定される規定を置いています。よって、これらに当たる場合は、反証によって推定が覆らない限り、米国への輸入が禁じられます。
 

輸出規制

次に、輸出規制について、エンティティ・リストに掲載された事業体に対する米国からの輸出を輸出管理規制(Export Administration Regulations)により制限していますが、この際、輸出国先の人権状況を考慮する法改正や運用が進展しています。
 

経済制裁

経済制裁について、グローバル・マグニツキー人権問責法(Global Magnitsky Human Rights Accountability Act)など、さまざまな法律およびこれらに基づき発令された大統領令により、人権侵害に加担した疑いのある外国の団体または個人を制裁リスト入りさせ、米国内の資産凍結、取引禁止などを講じています。例えば、香港自治の侵害に重要な寄与を行う外国人やその外国人と重大な取引がある外国金融機関、新疆ウイグル自治区における人権侵害に関与した中国政府幹部が、制裁リストに挙げられています。
 

公共調達規制

さらに、公共調達規制として、連邦調達規則(Federal Acquisition Regulations)が事業者およびその下請け業者などに対する禁止事項を定めています。例えば、人身取引への関与、強制労働の使用、労働者の身分証などのはく奪、採用時の詐欺的行為、雇用契約書の不提供といった行為が政府調達に際して禁止されています。これらの禁止事項に違反した場合、事業者およびその下請け業者は、支払い停止、契約解除、調達への参加資格の停止などの措置を講じられる可能性があります。
 
以上のとおり、アメリカにおける人権規制は、輸出入規制や制裁など多岐にわたります。実務上、規制をめぐる情報の収集(または情報の取捨選択)が難しいと指摘されていますが、米国当局が公開しているソースを中心に、強制労働などによって規制の対象となる商品リストを網羅的に確認し、自社の取り扱う製品に関連してサプライチェーンにおいて人権侵害リスクが生じていないかを確認することが重要となります。
 
※時事速報シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、欧州、米国の各版2024年9月4日号より転載
 

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入江 克典 Katsunori Irie

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