[Vietnam Legal Update] ベトナムAI法施行政令の主なポイント

[Vietnam Legal Update] ベトナムAI法施行政令の主なポイント

2026.5.27

 

1.  はじめに

2026年4月30日、ベトナム政府は、2026年3月1日に施行されたAI法(No.134/2025/QH15、以下「ベトナムAI法」といいます。)の施行に関する詳細な規則及び措置を定める政令No.142/2026/ND-CP(以下「政令第142号」といいます。)を公布しました。同政令は2026年5月1日に施行され、ベトナムAI法に関する最初の施行政令となりました。

本稿では、政令第142号の主なポイントについて概説します。

 

2.  規制の範囲

政令第142号は、第2条において広範な適用対象を定めています。具体的には、AIシステムの開発者(Developer)、提供者(Provider)、導入者(Deployer)から、利用者(User)、AIシステムの影響を受ける者まで、AIシステムに関与する幅広い主体が規制対象とされています(第2条第1号)。

特に注目すべきは、政令第142号がベトナム国内でAI関連活動を行う外国の組織及び個人にも適用される点です(第2条第2号)。これは、ベトナム市場でAI製品やサービスを展開する外国のテクノロジー企業や個人が、その主たる事業所がベトナム国内にあるか国外にあるかを問わず、規制対象となる可能性があることを意味します。

もっとも、「ベトナム国内でAI関連活動に従事する」という文言については、依然として曖昧さが残されています。例えば、ベトナム国外の提供者がベトナム国内の顧客に対して直接AI関連サービスを提供する場合や、ベトナム国外の親会社の運営下でベトナム国内の子会社にAIシステムが導入される場合について政令第142号の適用対象となるかは明らかではありません。

 

3.  AIワンストップポータル及びAIシステム国家データベースの創設

政令第142号の特徴の一つとして、科学技術省(Ministry of Science and Technology:MoST)の管理・運営する国家レベルのAIガバナンス制度が導入された点が挙げられます。

具体的には、以下の2つの制度が新設されています。

AIワンストップポータルAI Single-window Portal

AIワンストップポータルは、AIシステムに関する行政上の手続及び義務を一元的に処理するためのプラットフォームです。主な機能としては、以下が挙げられます。

・リスク分類結果及び適合性評価結果の通知の受付

・AIシステム識別コードの発行

・インシデント報告及び定期報告の受付

・AIシステムの自動リスク分類の支援

・適合性評価結果及び違反処分情報等の公表

・ガイダンス要請の受付

・政府機関によるAI利用状況の監視

もっとも、本稿執筆時点では、当該ポータルは未だ稼働していません。そのため、企業としては、公式発表を通じて運用開始時期を継続的に確認するとともに、AIシステム識別コードや電子認証手続等への対応体制を整備しておくことが推奨されます。

AIシステムに関する国家データベース:

AIシステムに関する国家データベースは、科学技術省(MoST)の管理下で運営されます。

 

4.  AIシステムのリスク分類義務

AIシステムは、高リスク、中リスク及び低リスクの3つのカテゴリーに分類されます(ベトナムAI法第9条第1項)。提供者は、AIシステムの運用開始前に、AIシステムがこれらのカテゴリーのいずれに分類されるかについての評価を完了する必要があります(政令第142号第5条)。

また、提供者の分類義務に加え、導入者にも一定の義務が課されています。具体的には、AIシステムの導入、変更、統合又は機能若しくは利用目的の変更により、当初の分類時点で想定されていたものと比較して新たなリスク又はより高いリスクが生じる場合には、導入者は提供者と協力し、当該AIシステムの見直し及び再分類を実施する必要があります。

各リスクの分類基準は、以下のとおりです。

- ​​​​​​​高リスクAIシステム:

本稿執筆時点では、高リスクAIシステムを定めるリストは公表されていません。当該リストは、2026年第3四半期に公表予定とされているため、今後の公式発表を注視する必要があります。

- ​​​​​​​中リスクAIシステム

政令第142号において、以下の2つの要件をいずれも満たす場合に、中リスクAIシステムに該当するものと規定されています。

① 高リスクAIシステムのリストに含まれていないこと

② 利用者が、対話している相手がAIシステムであること又はコンテンツがAIにより生成されたものであることを認識できないことにより、利用者に混乱を与え、影響を及ぼし又は操作する可能性を有すること

もっとも、上記②の「利用者に混乱を与え、影響を及ぼし又は操作する可能性」という要件については、その内容が広範かつ抽象的であり、現時点では明確な基準が示されていません。そのため、実務上は、シミュレーション機能の有無、ユーザーとの直接的な対話機能の有無、一般利用者に対するサービス又はコンテンツの直接提供の有無といった要素を踏まえ、個別具体的に判断する必要があると考えられます。

なお、政令第142号第9条第3項では、中リスクAIシステムに該当しない類型が規定されています。

- ​​​​​​​低リスクAIシステム

高リスク・中リスクのいずれにも該当しないAIシステムは、低リスクAIシステムに分類されます。

 

5.  リスク分類書類の作成及び適合性評価

提供者は、高リスク及び中リスクに分類されるAIシステムについて、当該システムを運用開始する前に、リスク分類に関する書類を作成する必要があります(政令第142号第12条)。

また、高リスクAIシステムについては、提供者は、当該システムを運用開始する前に適合性評価を実施する義務を負います(ベトナムAI法第13条)。

さらに、高リスクAIシステムの運用期間中に、当初の適合性評価結果に影響を及ぼし得る重要な変更がシステムに加えられた場合には、提供者は改めて適合性評価を実施する必要があります。

 

6.  AI生成コンテンツに関するラベリング要件

導入者は、AIシステムを利用して生成又は編集された音声、画像又は動画について、AI生成コンテンツと真正なコンテンツを区別する目的で、明確に認識可能なラベルを付す義務を負います(政令第142号第18条)。具体的には、①当該コンテンツが実在する人物の外見又は音声を模倣又はなりすましている場合、及び②当該コンテンツが実際の出来事を再現する場合には、導入者が上記義務を負うことになります。

もっとも、法令に別段の定めがある場合を除き、技術的な編集、テキスト処理、社内利用、又は研究・試験目的での利用等、一定の場合については表示義務の適用除外が認められています(同条第4項参照)

 

7.  AIシステムに関する重大なインシデントの報告義務

AIシステムに関する重大なインシデントが発生した場合、提供者(提供者と連絡を取ることができない場合には導入者)は、AIワンストップポータルを通じて予備的なインシデント報告を行う必要があります(政令第142号第19条)。

報告期限は、①緊急かつ制御不能なインシデントについては 72 時間以内、②その他の重大なインシデントについては 5 営業日以内となっています。

 

8.  AIサンドボックス

政令第142号では、管理されたAIシステムのテスト環境(AIサンドボックス)に関する独立した章が設けられています。同章では、AIサンドボックスの基本原則、レベルの分類、所管当局、参加承認手続、並びに参加のための要件及び必要書類等が規定されています。

 

9.  企業への推奨

企業としては、現在使用している又は導入する予定のAIシステムに対して包括的にレビューを行い、リスクの分類・関連書類の作成、AI生成コンテンツに関する表示義務への対応状況の確認、AIシステムに関するインシデント対応や報告体制の整備といった内部対応を整理する必要があります。

また、AIワンストップポータルの正式な運用開始時期は現時点では未定であるため、ベトナム政府による公式発表を継続的に確認するとともに、AIに関する規制の動向についても引き続き注視することが重要です。

 

執筆日:2026518

 

著者等

パートナー

入江 克典 Katsunori Irie

お問い合わせ
オブ・カウンセル

グエン・ティ・フォン・ラン Thi Phong Lan Nguyen

お問い合わせ
アソシエイト

及川 泰輔 Taisuke Oikawa

お問い合わせ