[Legal Update] 「ベトナムにおける新たな事業手続き枠組みの導入」
ベトナムにおける新たな事業手続き枠組みの導入
2025.8.1
2025年6月30日、ベトナム政府は、種々の事業手続きを包括的に規制する政令第168/2025/ND-CP(以下「新政令」といいます。)を制定しました。新政令は、政令第01/2021/ND-CPの廃止とともに2025年7月1日に施行され、事業の透明性を高め、電子登録手続きの簡素化を図る重要な手続・コンプライアンスの変更を導入するものです。新政令には多くの情報が含まれていますが、特に以下の主要な点を取り上げます。
1. 新政令をもって確立した実質的支配の基準
新政令により、2025年改正企業法に基づき導入された実質的支配者に関する規定が整備され、企業の透明性向上とマネーロンダリング防止に関する国際基準との整合が図られます。
実質的支配者の定義
新政令では、実質的支配者は、以下のいずれかに該当する自然人として定義されています。
・ 会社の定款資本又は議決権付株式の25%以上を直接又は間接的に保有する者(他の法人を経由した保有も含む)
・ 以下を含む会社の重要事項について支配権を行使する者:取締役会の役員、取締役会の会長、社員総会の会長の過半数又は全員の任免、法定代表者、取締役又は代表取締役の任免、会社定款の修正、会社の管理体制の変更又は組織再編(吸収合併、新設合併、会社分割)又は会社の解散
実質的支配者の開示
創設者及び会社は、実質的支配者に該当する者を積極的に特定する義務を負い、設立時及び変動があった時点(10日以内)で、地方当局にかかる情報を報告する義務を負います。
特に、株式会社は、25%の保有基準に達した個人株主及び法人株主を地方当局に報告する義務を負います。かかる規定は、外国株主又は創設時の株主のみを対象としていた従前の義務の範囲を拡大したものとなります。
実質的支配者の情報へのアクセス
実質的支配者の情報は、マネーロンダリング対策の目的で規制当局に提供されますが、一般には非公開であり、個人や組織からの請求による開示を含め、認められません。
2. 持分譲渡完了及び資本拠出の証拠書類の明確化
新政令では、持分譲渡や出資、保有割合の変更、外国人株主及び資本金の変更等、株主(持分権者)の変更を伴う企業登記において、持分譲渡及び資本拠出を根拠づけるために必要な文書を明示しました。この明確化は、複雑なM&A取引において、地方当局により課せられてきた長年の矛盾及び厳格な解釈を解消することが期待されています。
法令上許容される資本拠出の証拠は、以下のとおりです。
(i)社員/株主登録名簿の写し又は抜粋、(ii)持分証明書、(iii)法人口座への銀行送金確認書、(iv)その他、法令上許容された証拠
また、持分譲渡完了は、以下の1つ以上によって立証可能です。
(i) 社員/株主登録名簿の写し又は抜粋、(ii)契約のクロージング確認書又は覚書の写し又は原本、(iii)銀行送金確認書、(iv)その他、法的に有効な書類
3. 未分類業種の登録
従前、ベトナムの国家分類システムに掲載されていない新業種の登録は、地方当局の裁量による判断の対象となっていました。しかしながら、新政令下では、提案された事業活動が法令により明示的に禁止されていない限り、当該登録が認められることになりました。この重要な変更は、手続の柔軟性を向上させ、また、新規又は非典型の分野での事業拡大に大いに資するものとなります。
4. 2026年よりオンライン申請におけるデジタル署名が義務化
2026年1月1日から、国家事業登録システムを通じて提出される全ての企業申請(以下「オンライン申請」)において、個人のデジタル署名が必要となります。かかる義務規定が効力を生ずるまでの間、オンライン申請は、個人のデジタル署名又は個人用VNeIDを用いた認証済みの事業者アカウントのいずれかにより認証されます。
5. 全ての企業を対象とする全国統一データベース
新政令下では、業種別の法令に基づいて設立された企業(弁護士法に基づき設立された法律事務所や保険業法に基づき設立された保険会社等)は、国家企業登録データベースに統合されることになります。企業データベースの完全な統合により、全ての企業に対する統一的な管理が可能となり、特に、企業が設立された法的枠組みや規制の有無に関わらず、企業名が既存の法人と同一又は紛らわしい名称になることを回避できるようになります。
6. 企業変更の効力発生日に関する矛盾の解消
旧政令第01号では、法定代表者、会社名、住所、定款資本又は持分権者の変更といった企業登録証明書の記載変更は、証明書の発行された時点で法的効力を有すると規定されていました。これは、社員総会、取締役会又は株主総会が当該変更の効力発生日を定めることができるとする企業法の規定と矛盾するものでした。新政令は、旧政令第01号の当該規定を排除し、この矛盾を解消するとともに、社内組織の決定と効力発生日を一致させる内容に統一されました。
7. 手続きの迅速化・簡素化
企業登録証明書及び企業登録変更確認書の再発行のスケジュールが、3営業日から1営業日に短縮されます。また、企業は、具体的な手続きに応じて、社員総会、株主総会又は取締役会の決議書又は議事録のいずれか一方を提出することができ、両方を提出する必要はなくなりました(従前は両方の提出が必須でした)。
8. 行政区画変更による住所変更の場合、届出不要
新政令は、公式書簡第4370/BTC-DNTN号の指針を成文化し、行政区画の境界変更が登録住所に影響を与える場合でも、企業が変更届出を提出する必要はないことを確認しています。企業は、住所情報を自主的に更新するか、他の登録手続きと併せて更新することができます。
おわりに
新政令の施行を受け、企業は、この新しい規制がコーポレートガバナンス、登録手続き、コンプライアンスの実施に与える影響を評価する必要があります。重点的に見直す必要がある分野は、実質的支配者の特定と開示、持分譲渡及び資本拠出に関する書類の基準及び2026年1月1日から開始されるオンライン申請におけるデジタル署名への対応準備でしょう。企業内での早期の見直しとかかる変更への積極的な対応は、規制リスクの軽減や改訂された法制度下での円滑な事業運営の確保に資するものと考えられます。